置換ベンゼンの反応
前回はベンゼンの反応について見てきたが、今回はベンゼンに置換基がついていたらどうなるかを見ていこう。
ベンゼンに置換基がつくことによって①反応性はどう変わるか? ②どの位置で反応するか?(配向性)の二点について考えてみよう。
①反応性
図1のようにベンゼンに置換基Rがついているものを考える。Rが電子求引基だとベンゼン環のπ電子は減少するため求電子置換反応は起きにくくなり反応はおそくなる。(電子求引基の例:ハロゲン、c=o、CF3、CN、SO2OH)一方、Rが電子供与基だとベンゼン環のπ電子は増加し反応は速くなる。(電子は供与基の例:N、O、アルキル基、フェニル基)
②配向性について
図2
図3
ベンゼン環に電子供与基がついている場合、図2のようにオルト・パラ配向性を示す。(オルト位よりパラ位のほうが多いのはパラ位のほうが立体障害が小さいためである。)一方ベンゼン環に電子求引基がついている場合、図3のようにメタ配向性を示す。このように違いが生じるのは一体なぜなのだろうか。その答えは共鳴構造式を書くことで理解できる。
図4
図4のようにオルト、パラ、メタそれぞれについて共鳴構造式が書ける。ここで注目したいのは印をつけた構造、つまりC+に直接置換基Rがついているものである。このような構造はオルト位とパラ位で置換した場合のみに見られ、メタ位で置換したときには見られない構造である。
Rが電子供与性ならばC+に電子が流れ込み安定化する。これによってオルト位、パラ位での反応が起こりやすくなり、オルト・パラ配向となる。Rが電子求引性のときはC+からさらに電子を吸い上げることになり不安定化する。これによってオルト位、パラ位での反応が起こりにくくなり、相対的にメタ位での反応が有利になる。これがメタ配向の原因である。
・例外
図5
置換基Rがハロゲンの場合、ハロゲンは電子求引基であるが、オルト・パラ配向性を示す。例えばFは電気陰性度が高いため、ベンゼン環のCから電子を求引する性質がある。これを誘起効果という。一方Fには非共有電子対があり、図5のように共鳴により電子を供与する性質がある。これを共鳴効果という。一般に共鳴効果>誘起効果であるので、FはC+に電子を供与しオルト・パラ配向となる。
ベンゼンの求電子置換反応
今回はベンゼンの求電子置換反応について見てみよう。
図1
図2
ベンゼンの求電子置換反応は図1のように進行する。まずベンゼンのπ電子が求電子剤E+にアタックし、Eが付加する。次にX-がEと同じCについているHを引き抜きHが脱離する。ここで注意したいのは、図2のようには反応しないということだ。ベンゼン環は芳香族性をもっており安定な構造であるのにわざわざ芳香族性を失うようには反応は進まないのである。付加→脱離という過程を経ることが芳香族性を失わずに置換されることのポイントなのである。
図3
ここで具体例としてハロゲン化を見てみよう。ベンゼンにCl2と触媒として鉄(FeCl3)を加えると図3のようになる。ここでのポイントはCl2を加えたならば触媒はFeCl3(FeBr3はダメ)を加えるということだ。この反応の反応機構を見てみよう。
図4
図5
Cl2と触媒のFeCl3が図4のように反応し図4の生成物ができる。この生成物がCl+(求電子剤)のような役割をはたす。そして図5のように反応は進行しベンゼンはハロゲン化される。
次に求電子置換反応の代表的な反応Friedel-Crafts反応について見てみよう。Friedel-Crafts反応にはFriedel-Craftsアルキル化とFriedel-Craftsアシル化の2種類がある。まずはFriedel-Craftsアルキル化から見ていこう。
図6
図7
Friedel-Craftsアルキル化はベンゼンに塩化アルキルと触媒としてアルミニウム(AlCl3)を加えると図6のようにベンゼンがアルキル化される。反応機構を見てみよう。図7のように塩化アルキルと触媒が反応しカルボカチオンが生成する。このカルボカチオンが求電子剤となりベンゼンと求電子置換反応して図6の生成物が得られる。
Friedel-Craftsアルキル化の問題点としてはカルボカチオンによる求電子置換反応であるために直鎖アルキル(エチル以外)で置換することができない点がある。一般にカルボカチオンの安定性は第一級>第二級>第三級であるために塩化アルキルと触媒が反応して第一級カルボカチオンが生成したとしても第二級カルボカチオンに転移してしまい第一級カルボカチオンとベンゼンを反応させることが困難なのである。
では、直鎖アルキルベンゼンをつくるにはどうしたらよいのだろうか。ここで用いるのがFriedel-Craftsアシル化反応(図8)である。図9のように酸塩化物(塩化アシル)と触媒(AlCl3)が反応するとアシリウムイオンが生成するがアシリウムイオンは転移をしない。これによって直鎖アルキルベンゼンを生成することができるのである。
図8
図9